例えば、かつて任意整理を行い示談契約をして、返済を続けたものの、すべての取引を引き直し計算すると実際には過払い状態になっていた場合など、債務整理しても過払い請求できるか、という問題があります。

 この場合、結論から言いますと、過払い請求は可能です。任意整理の時点で引き直し計算をすれば過払い状態、あるいは債務額が大幅に減少していた可能性があるものの、任意整理における示談契約は単に支払方法を見直す私人間の契約にすぎないからです。

 しかし、かつて債権者から貸金請求訴訟を提起され、判決または裁判上の和解があった場合に、当時の取引すべてを引き直し計算して過払い状態になっていたら過払い請求ができるのか、つまり裁判上の和解をしても過払い請求できるかという問題については、別途考慮が必要です。

 任意整理の示談契約とは異なり、裁判で判決や裁判上の和解がされると、裁判所という国家機関の意思が介在します。裁判所の判決には既判力という効力があり、後になってその判決の内容と矛盾する主張ができなくなります。そうなると、たとえ裁判の時点で過払い状態になっていたとしても、「まだ債務が残っており、このように返済しなさい」という裁判所の意思を無視することはできず、過払い金を請求することができなくなってしまうのです。

 もっとも、過払い請求という概念が生まれた平成10年代半ば以降になってくると、裁判所は法定利率に引き直した計算書の提出を要求するようになり、過払い状態を無視して債権者の請求を鵜呑みにすることはなくなったので、上記のような問題が発生するのは、過払い請求の概念が生まれる前に裁判があった場合の話であることに注意が必要です。

土田司法書士事務所